「探している商品」と「探していない商品」
商品には、お客さんが「探している商品」と「探していない商品」があると思う。
「探している商品」とは、とある機能を持つ商品が世の中に存在しているとお客さんが知っていて、それを手に入れるために探している商品。
「探していない商品」とは、その逆で、そういった機能を持つ商品が存在しているとお客さんが知らず、探すという段階に至っていない商品。
例えば、僕たちのフィールドである飲食業界でいうと、ぐるなびや食べログといった「日本人向けの集客サービス」は「探している商品」。
多くの飲食店が開業と同時に、ぐるなびに載せるか、食べログに載せるか、別の媒体を使うかといったことを検討する。
一方、弊社のサービス「Tokyo Dinner Ticket」のような「外国人向けの集客サービス」は「探していない商品」。
最近は少し状況も変わってきたが、最初に僕がこのサービスの営業を始めた時は、外国人集客のためにお金を払ってサービスを使おうと検討したことのある外食企業はまだまだ少なかった。
「探している商品」と「探していない商品」で何が違ってくるのかというと、サービス提供者がとるべき戦略が大きく変わる。
「探している商品」はお客さんが他社製品と比較検討する商品でもある。
したがって、自社製品を買ってもらうためには、他社製品との差別化が重要になる。
それは機能面かもしれないし、金額かもしれないし、サポート体制かもしれない。
一方、「探していない商品」では、差別化はあまり問題にならない。
お客さんは比較検討すべき他社商品を知らないし、そもそもまだ類似商品が少ないはずだ。
重要なのは、どうやって最初にお客さんの目に留まるか。
「Tokyo Dinner Ticket」の場合、最初に外国人集客の提案を持ってきたのが弊社だったからという理由で導入してくれる会社がほとんどだった。
「ぐるなびと何が違うのか?」と聞かれたことはない。
つまり、「探していない商品」では、差別化よりも営業やマーケティングが重要になる。
差別化と営業のどちらが簡単ということはないが、「探していない商品」を扱う場合、細かな機能面の差にこだわるより、どうやって知ってもらうかを考える方が先決だと思う。
「探していない」とは、つまりGoogle検索もされないということであり、そういった人にリーチするのはとても難しい。
余談だが、サービスの提供者側から見ると、「探していない商品」は「お客さんのニーズを先取りしている商品」と「単にニーズがない商品」に分類される。
それがどちらなのかは、実際に売ってみないと分からない。
スキルかモチベーションか
スタートアップでは、事業を前に進めるための「仲間集め」が常に課題となる。
特に創業直後は売上も立っておらず、人件費を払う余裕がないため、協力者を得ること、チームを作ることはなかなか大変な作業だ。
僕もこの点はずっと苦労してきたし、今も苦労している。
そうした中、最近大きく考え方が変わったことがあるので、それを書いておきたい。
結論から言うと、以前は「モチベーションがあればスキル不問でチームに受け入れる」という方針だったのだが、今は「モチベーションがあってもスキルがない人間は受け入れない」に変わった。
スキルとモチベーション、どちらを優先するかは議論が分かれるところだ。
「モチベーションさえあればスキルは後からついてくる」という主張は納得感があるし、僕自身そう思っていた。
しかし、創業してこれまで10名ほどをチームに受け入れる中で、この考え方は随分甘くて楽観的過ぎるという結論に至った。
「モチベーションがあればスキルは後からついてくる」というのは事実だと思うが、それは事実の片面でしかない。
事実のもう片面として、「スキルがなければモチベーションは下がる」ということが見過ごされている。
「現在スキルはないけどスタートアップで経験を積みたい」という人とこれまで何人も会い、実際にチームに迎えて入れてきた。
ここでいう「スキルのある・なし」とは、マーケティング・IT・語学などの特定の分野で、すぐに仕事を任せられるだけの能力を身につけているかということだ。
例えば、「現在は営業職に就いているが、Webマーケティングに強い興味があり、無給でいいので御社でマーケティング実務に携わらせて欲しい」とコンタクトしてくれた人がいた。
Webマーケティングに携わりたいと言いながら、SEOという言葉も知らない人だった。
それでも、自学自習しながら実戦で学んでくれればいいかと思い、チームに迎えて少しずつ機会を与えたものの、結局ついてこれず、2か月後にはいなくなっていた。
最初に強いやる気(モチベーション)を感じただけに、とても残念だった。
こうした例はこの人一度限りのことではない。
「モチベーションがあるうちにスキルが上がるか」、「スキルが上がる前にモチベーションが下がるか」は環境に寄ると思う。
例えば、ある程度ちゃんとした企業で正社員として入社すれば、そう簡単には辞められないし、研修もしっかりしているので、そのうちスキルもついてくる。
前者の状態だ。
一方、多くのスタートアップチームでは、懇切丁寧に業務について手ほどきする時間はない。また、雇用形態も正社員でなかったり、業務委託やボランティアのような緩い関係の場合もある。
こうした状況で、スキルのない人は思うようにスキルが上がらず、そもそもスキルを上げなければならないというプレッシャーも発生しない。
そして、スキルがないため自分が事業に貢献できる点が見出せず、居場所がなくなり、モチベーションも下がっていく。
モチベーションは、チームに入る前は「これからの期待や自分の理想の姿」に依存しているが、入ってからは「事業への貢献度(役に立てるか)」に依存するのだと思う。
貢献できなければ、モチベーションは下がる。
実際、これまで去った人の中に「この人がいなくなると事業に影響が出る」という人は一人もいない。
それだけ貢献度が低い人だけが抜けていったということだ。
逆に、今残ってくれている人は、一人でも欠けるとすごく困る。
残ってくれている人たちは全員、出会った時点ですでに事業に貢献できるスキルを持っていた。
「去っていった人たちに、もっと丁寧に研修や教育をしてスキルを上げてあげれば良かった」と考えることもできる。
しかし、少なくとも今は全くそう思っていない。
スピードだけが命のスタートアップにおいて、一番遅いところにスピードを合わせるのは致命的だからだ。
もちろん、モチベーションとスキルが両方揃っている人に参加してもらうに越したことはないが、そんな人はそう簡単には見つからない。
となると、バランスが重要だ。
以前は「スキル1:モチベーション9」くらいのイメージで採用していたが、今は「スキル6:モチベーション4」といったところだろうか。
会社としてもっと余裕が出てくれば、また違った取り組みができるだろうが、今はまだその状態ではない。